大友良英
磨滅する記憶

JO97-33/35 大友良英 磨滅する記憶 2LP(限定500枚/Blk & Clear) 売切



『磨滅する記憶』は、これまで私がやって来たライブやレコーディングとは異なり、半年をかけて行われた4つのプロセス全体を示す作品で、この2枚組のアナログディスクの発売は、その最終段階にあたります。

第一段階は、ブラックディスクのA,B面に収められた音源の作曲、録音で、これは叩き割った一枚のレコーに入った亀裂をもとに厳密に音を入れる場所を決定し、A,B面まったく同じタイミングで87ヵ所にコラージュ音を入れました。ただしA,B面それぞれ音源は異なり、A面には20世紀の様々な歌を、B面には20世紀のアバンギャルドミュージック、とりわけエレクトリックな音を中心にコラージュしました。

第2段階は、この音源をもとにアナログディスクを500枚プレスし、10台のターンテーブルを使って神戸のジーベックホールで3週間にわたり流しつづけました。当初の予定では、もっと長期間にわたり、多数のターンテーブルを使い、流しつづけることでA,B面に入った20世紀の歌や、実験の数々が、スクラッチノイズの海に除々に沈んで行くというものでした。残念ながら、そこまでの作業には到らずレコードはさほど損傷を受けずにすみましたが、願わくば、皆さんのプレイヤーで流し続けることにより、これら20世紀の遺産の断片をノイズの海に帰してあげて下さい。
 

第3段階は、ここで使われたもとのレコードや音源を使って同じく神戸のジーベックホールでリアルタイムのライブを行い、それを録音しさらに別の透明なアナログディスクの形にすることにあります。このライブは、演奏をサンプラーの松原幸子に、録音はオメガサウンドの前川典也に、ミックスを同じくオメガサウンドの小谷哲也にそれぞれ協力してもらいました。
 

そして最後の第4段階は、会場ですりへったレコードとライブから作られたクリアレコードの2枚をまとめてパッケージし、市場に流通させ、それをあなたが購入するところまでも含みます。これをどう聴くかの答えはないし、その解釈も私は用意してません。
以上の過程の全てがこの「磨滅する記憶」です。

なお、このプロジェクトは、立ち上げから全体に到るアイデアまで、ジーベックホールのプロデューサー溝口治子さんなしには考えられませんでした。またレコードプレイヤーを心よく提供して下さったベスタックスの椎野社長、アルバム制作を強力に押しすすめてくれたジャパンオーバーシーズのみなさんとFMNサウンドファクトリーの石橋正治郎さん、そしてインスタレーションを実現して下さったジーベックのプロデューサー下田展久さん他スタッフの皆さんに心から感謝します。

1997年9月24日 大友良英



ヘルシット&カーハウス JO96-24
Mc.Hell Shit & Dj. Car House
"Live!!"
¥2000
大友良英とヤマタカ・アイによるユニット。イギリスのBlast Firstから出ているmini-CDとは異なる内容。



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